胸に降りる、空白。
 
ふと目が覚めてしまった、夜の真ん中。
思いがけず放り出されてしまったような感覚。

しん、と静まり返った部屋。
遠離る救急車のサイレン。
時折通る、車の音。
眠るに眠れず、横たわる布団の妙な熱さ。

誰にも会わない日曜日の夕方。
一度も鳴ることの無かった電話。
誰もいない家の中へ放つ「ただいま」

そのどれにも似ていて、似ていない、空白。
欠けも満ちもしない、空白。

どんな楽しさも、その空白を埋めることは出来ない。
ものすごくおいしいものを食べて、大好きな人たちと遊んで、
かつて読んだ絶版本を見つけて貪り読んでも。

眠る猫を無理矢理抱き上げて、撫でる。
その細い抗議の声と、抱いた掌に伝わる振動に少し安心する。
猫は、空白の形に少し似ているのかもしれない。ほんの少し。

泣きはしない。
笑いもしない。

何をどうすることも出来なくて、ただ困っている。

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